無限エンジンEMドライブって何？原理・仕組みと最新研究動向

「無限エンジンEMドライブって何」

「燃料を使わずに推進力を生み出す夢のエンジン」として注目されたのが、通称「無限エンジン」とも呼ばれるEMドライブです。もし実現すれば宇宙船の長距離航行やコスト削減に革命をもたらすと期待されました。しかし、原理そのものが物理学の基本法則に反する可能性があるため、世界中の科学者の間で長く議論を呼んできました。本記事では、EMドライブとは何か、その仕組み、検証実験、そして現在の評価について詳しく見ていきます。

【原理不明の無限エンジン「EMドライブ」】燃料不要で永遠に加速？20年の論争の果てに行き着いた結末（スペースチャンネル） - エキスパート - Yahoo!ニュース

1.EMドライブとは何か

EMドライブ（Electromagnetic Drive）は、2001年にイギリスの技術者ロジャー・ショーヤーが提案した推進システムです。最大の特徴は「推進剤を必要としない」とされる点で、マイクロ波を密閉された円錐形キャビティ内で反射させることで微小な推力を発生させると報告されました。これが事実であれば、理論上は燃料補給なしで半永久的に加速できるため「無限エンジン」と注目されました。

2.提唱された原理と仕組み

提唱者の説明によれば、EMドライブは電磁波の持つエネルギーを空間内で非対称的に分布させることで、一方向の反作用を得るとされます。しかし、この説明は「運動量保存則」に矛盾する可能性が非常に高いと物理学者から指摘されています。従来の推進システムは質量（推進剤）を吐き出す反動で推力を得ていましたが、EMドライブはその原理を破る「反作用なき推進」となるため、常識的な物理法則の範囲では説明がつかないのです。

3.世界で行われた実験と結果

2010年代にかけて、中国やアメリカNASAの研究チームが小規模な実験を行い、微小ながら推力を検出したと発表しました。この報告により一時的に話題が大きく広がりました。しかしその後、実験誤差や熱膨張、測定系のノイズの可能性が指摘され、再検証では再現性のある推力を確認できなかった事例が相次ぎました。2021年にはドイツの研究チームが高度な測定環境で検証を行い、推力が発生していないことを示しています。

4.科学的な批判と「不可能」とされる理由

EMドライブに懐疑的な科学者たちは、「運動量保存則に反する」という根本的な問題を繰り返し指摘しています。物理学の基本法則を破らずに推進が得られる理論説明は存在していません。また、これまでの報告はすべて実験誤差や系統的なノイズで説明できる範囲だとみなされており、科学的に信頼できる証拠とは言えません。そのため現在では「動作しない」「原理的に不可能」との評価が主流です。

5.将来に残された可能性と議論

現在の科学的合意は「EMドライブは成立しない」というものですが、研究過程で得られた超精密な測定技術や解析方法は、他の宇宙工学や量子実験に応用されています。加えて、異端的なアイデアに挑戦する姿勢そのものは新しい発見を促す土壌にもなり得ます。つまり、EMドライブそのものは否定的な結論が強い一方で、宇宙推進技術の未来を考える上で刺激的な存在であり続けています。

6.日本では研究されていたのか

日本でのEMドライブ（無限エンジン）の研究は、明確には大規模な公的研究としての報告はあまり見られませんでした。主に中国やアメリカのNASAや西北工業大学などが先行して2010年代から実験・研究を行ってきたことが知られています。日本の大学や研究機関での独自の大規模な研究・実験報告は目立っておらず、EMドライブに関する研究の中心は海外にあるのが現状です。

ただし、少数の日本の研究機関・大学（例：沖縄科学技術大学院大学など）が量子エンジンや新しい推進技術に関連した研究を行うケースはあるものの、それらはEMドライブそのものの直截的な研究とは異なる内容でした。

まとめると、EMドライブについての直接的な日本の研究事例やニュースは限定的で、世界的には中国やアメリカが主導的に取り組んでいる分野となっています。style.nikkei+3